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世界の食トレンドと消費者が食に求める3つの役割


 こんにちは、フードピクトの菊池信孝です。本記事では弊社が毎年刊行しているレポートの2023年度版「Explore the Future of Food」の前編を、6つの事例とともに紹介しています。本記事の後編にあたる「世界に通用する食体験を届ける3つのステップ」(投稿前)もあわせてご覧ください。


 

食トレンドの変化 

食事は栄養補給から自己実現の手段へ


 新型コロナウィルスの世界的な感染拡大とライフスタイルの変化に伴い、消費者が食に求める意味や価値は大きく変化しています。


 例えば、コロナ禍においては外食を控える傾向が強まり、2020年の外食産業の売上は前年比で84.9%と、1994年の調査開始以来最大の下げ幅を記録しました(日本フードサービス協会「外食産業市場動向調査」2020年)。


 外食の機会とともにテレワークが進んだことで人と会う機会も減少し、日本人の3人に1人(39.3%)は孤独感を感じながら生活しています(内閣官房孤独孤立対策担当室「人々のつながりに関する基礎調査」2024年3月)。


 またSNSの普及とともにスマートフォンがないと不安に感じる人も増加しています。


 特に12~21歳では2人に1人(61%)が「とても感じる」または「少しは感じる」と回答し、その数は団塊世代の二倍以上です(笹川スポーツ財団「スマホ不安の実態と関連する生活状況」日本体育大学 野井真吾教授)。


  人との接触機会が減り、SNSを通した交流が広がるなか、若い世代を中心に他人との共通項が多い食情報に時間を費やす傾向が強くなっています。


 これにより食トレンドの多様化が進むとともに、これから紹介するような多様なニーズに応えたり、不安感や孤独感を解消してくれる商品やサービスが成長しています。


  多くの先進国ではマズローが提唱した五段階の欲求にある基本的な食事へのアクセスが満たされた現在、食事は栄養補給から自己実現の手段へと変化しています。


  その変化を象徴するひとつとして、ヴィーガンやプラントベースなどのライフスタイルが世界的に流行していますが、第一部では表面的なトレンドを解説するのではなく、その背景にある消費者の本質的なニーズを事例とともに紹介します。


  そのことにより読者のみなさまがトレンドを追いかけるのではなく、いま取り組んでいる事業に消費者ニーズをしっかりと取り込んでいただき、事業の成長に活かしていただくことを目指して編集しました。

 

 現在の消費者が食に求める役割は大きく下記の3点が挙げられます。これらの3つの役割を、関連する9つのキーワードとともに見ていきましょう。


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消費者が食に求める3つの役割と9つのキーワード|筆者作成



1. 主体的な選択|Desire for Choice

 

 「主体的な選択|Desire for Choice」とは、自分が食べるものは自分で選びたいという欲求です。


 ここでのキーワードは3つあります。

 

 一つ目のキーワードは「知識とアクセス」です。


 有機栽培などの自然なものを求める傾向や、ブロックチェーンを活用したトレーサビリティがより確かなもの、企業活動や商品の透明性がより高いものを購入する傾向が強くなっています。


 また地産地消を含むよりローカルなものを求める傾向や、キッチンや窓辺でのハーブ栽培、ベランダや庭でのプランター栽培をする人の増加や、食品をストックする傾向などが強くなっています。

 

 二つ目のキーワードは「個別最適化」です。


 免疫向上につながる機能性食品やサプリメントや、科学や生体学に基づくバイオハッキングへの関心、自分の生活スタイルにマッチしたデリバリーの利用や、間食(スナック)市場の世界的な成長、スマートウォッチなどによる健康管理トラッキングや、GABAやCBDオイルなどのスマートドラッグへの関心が高まっています。

 

 三つ目のキーワードは「制限と快適性」です。


 グルテンやGMO、MSGなどの特定の物質を含まない食品を求める傾向や、ファスティングなどの健康管理、できる限り自然に近い食品を食べるクリーンイーティングへの注目が高まっています。


 また動物性の食材を回避するプラントベースなどの新しい食品では、ハンバーガーやピザなどの食べ慣れた形態での消費が伸びています。

 

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 これらのキーワードを踏まえ、主体的な選択をしたい消費者のニーズにうまく応えている事例には、どのようなものがあるでしょうか?

 


 動物福祉の視点からより自然に近い環境で育てられた畜肉を6段階で評価し、飼育環境に応じてその結果を販売する肉ごとに売り場で開示しています。またシーフードについてはサステナブル認証の有無と資源状況を開示しています。


 

 また飲食店の事例としては[事例02]ニューヨークの郊外にあるBlue Hill at Stone Barnsが挙げられます。


 アメリカでオーガニックの母と呼ばれるアリス・ウォータースの教え子であり、第三の皿(The Third Plate)を提唱するシェフのダン・バーバーが造った、Farm to Fork(農場から食卓まで)の世界観を体現する農場併設のレストランです。

 

 レストランでは自社農園で栽培した採れたての有機野菜を使った料理を提供しています。またFarm to Forkの世界観を体験できるツアーを開催し、世界中から訪れるファンに食に関する知識を提供しています。





2. コミュニティへの帰属|Desire for Belonging

 

 消費者が食に求める二つ目の役割は「コミュニティへの帰属|Desire for Belonging」です。これは自分と同じような食品を選ぶ人と繋がりたい、それにより自分を表現したいという欲求です。

 

 ここでのキーワードは3つあります。

 

 一つ目のキーワードは「社会的承認欲求」です。


 料理写真や料理動画の投稿ブーム、インスタ映えするスーパースナック、ユニコーンケーキ、レインボーベーグル、ガーデンフォカッチャ、ダルゴナコーヒー*¹などの人気が高まっています。

 

 二つ目のキーワードは「自己認識と自己表現」です。


 ヴィーガンやプラントベースの食品や、パレオやケトジェニック*²などの食事方法の流行、それらに関連するインフルエンサーの影響力の拡大、食料生産や流通の主権を生産者やコミュニティが取り戻すべきだという食の主権などへの関心が高まっています。

 

 三つ目のキーワードは「経験の共有」です。


 シェア料理やコミュニティテーブル、オープンキッチンやシェアリングエコノミーの流行などが挙げられます。Tik Tokを使ったオンラインでのリアルタイムな経験の共有も人気です。


  SNSの普及に伴い食事は栄養補給から自己の価値観やアイデンティティを表現する手段、つまり自分と同じような他人と繋がり、他人から「どういう人間として見られたいか」の表現手段へと変化しています。

 

サステナビリティ、地産地消、オーガニック、プラントベース、食トレンド


 これらのキーワードを踏まえ、コミュニティに帰属したい消費者のニーズにうまく応えている事例には、どのようなものがあるでしょうか?

 


  プラントベースチキンを「並んで、買って、食べる」という行為とそのSNS投稿は、自分と同じような食事を選ぶ他者とつながり、経験を共有し、いいね!をもらうという3つのキーワードを満たしてくれる体験として大きな話題になりました。


ケンタッキーのプラントベースチキン、サステナビリティ、地産地消、オーガニック、プラントベース、食トレンド
引用:KFC Facebook(https://www.facebook.com/KFC/posts/10158188542441560/)

  また飲食店の事例としては[事例04]北欧デンマークにあるnomaのシェアテーブルが挙げられます。


  noma には2人席や4人席の他にシェアテーブルという16人掛けの大きなテーブル席が用意され、見ず知らずの人同士がひとつの大きなテーブルを囲み、たのしい食事体験を共有する仕掛けが用意されています。


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引用:デンマーク王国大使館 (https://denmarkfood.jp/news/worldsbest50restaurants/)


3. パーパスの発見|Desire for Purpose


 消費者が食に求める役割の三つ目は「パーパスの発見|Desire for Purpose」です。これは社会のなかで自分の生きる意味や役割を食を通して見つけたいという欲求です。

 

 ここでのキーワードは3つあります。

 

 一つ目のキーワードは「有形の感覚」です。


 DIYやガーデニングといった身体的な感覚を伴う趣味や、ビールづくりやクラウドブレッドづくりといった具体的な形として完成する趣味への人気が高まっています。

 

 二つ目のキーワードは「自然への回帰」です。


 野菜づくりや、採集狩猟やジビエへの興味の高まり、農や緑のある暮らしや、キャンプやハイキングを始める人の増加、アニマルカフェなどの人気が高まっています。

 

 三つ目のキーワードは「社会性」です。


 SDGsをはじめとする持続可能性やフェアトレードへの意識の高まりや、フードロスの削減、リジェネラティブやカーボンネガティブなどの取り組みへの関心が高まっています。

​​

 ある調査によると、アメリカ人の54%は地元のコミュニティに貢献する商品を買いたいと考えていますが、アメリカでは「LOCAL」、ヨーロッパでは「km0」(キロメーターゼロ)、日本では「地産地消」などの名称でこの動きが活発化しています。


サステナビリティ、地産地消、オーガニック、プラントベース、食トレンド


 これらのキーワードを踏まえ、パーパスを発見したい消費者のニーズにうまく応えている事例には、どのようなものがあるでしょうか?

 

 食品物販の事例としては[事例05]URBAN REMEDYが挙げられます。


 有機野菜を使用したサラダやドリンクを販売している会社ですが、ここの商品が他社と大きく異なる点は、社会性を全面に押し出したブランディングです。


「EAT WITH PURPOSE」や「FOOD IS HEALING」などの社会性を意識したメッセージをウェブサイトやパッケージに記載し、Z世代のパーパス消費の取り込みに成功しています。



 

 また飲食店の事例としては[事例06]アムステルダム郊外にあるRestaurant De Kasが挙げられます。


 レストランに隣接するハウスと少し離れた自社農園で野菜を栽培し、毎朝収穫した野菜をその日のうちに料理として提供しています。


 レストランの空間は大型ハウスをアップサイクルし、また消費者が見学可能な栽培用温室を併設して、食事と見学を通して3つのキーワードを含む体験を提供しています。



 

 食事が栄養補給から自己実現の手段へと変化したいま、これらの3つの役割と9つのキーワードを理解することが必要です。

 

 このなかからみなさまが提供する商品や料理に関連するキーワードを選び、選んだ要素をより力強く発信するために商品や料理の内容を調整したりお客様とのコミュニケーション方法を改善していくことで、多様化する世界の消費者に選んでもらえるキッカケとなるでしょう。



後編に続きます(近日公開)


 

 株式会社フードピクトでは、ガストロノミーツーリズムやインバウンド対応に取り組んでいる観光・宿泊・飲食事業者に向けて、より良い食体験を届けるための事例集を毎年刊行しています。


 最新刊の事例集「Inclusive & Regenerative Gastronomy」は、2024年9月に書籍とPDFで販売予定です。書籍は資源保護のため初版100冊のみとなりますので、お早めにご予約・ご購入ください。なお2023年度の事例集「Expolore the Future of Food」は、引き続きPDF版をご利用いただけます(書籍は完売御礼)。



 また本事例集に関する講演や寄稿のご依頼にも対応しています。講演内容の詳細やこれまでの実績は下記よりご覧いただけます。


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