世界の食トレンドと消費者が食に求める3つの役割(記事はこちら)で紹介した通り、食事が栄養補給から自己実現への手段へと変化するなか、消費者が食に求める役割は、主体的な選択、コミュニティへの帰属、パーパスの発見の3つに分けることができます。
このうち「主体的な選択」をしたい消費者のニーズを満たしてくれる小売店の事例には、どのようなものがあるでしょうか? 本記事ではアメリカのホール・フーズ・マーケットの取り組みを紹介します。
ホールフーズマーケットとは
ホールフーズマーケット(以下「ホールフーズ」と記載)は、アメリカのテキサス州オースティンを拠点に、1980年に創業したスーパーマーケットです。2010年から2021年までの12年間で年平均17%の高い成長率を維持し、2023年1月現在、アメリカ、カナダ、イギリスで534店舗を展開しています。
ホールフーズの創業者で共同CEOのジョン・マッキーはコンシャス・キャピタリズム(意識的な資本主義)の提唱者としても知られ、「世界でいちばん大切にしたい会社」という著書や、「社会はビジネスを必ずしも必要としないが、ビジネスは社会を必要とする」という言葉を残しています。
彼の理念や言葉をそのまま体現しているかのような店内には、地元で採れたオーガニックの生鮮食品をはじめ、一般的なスーパーマーケットとは一線を画す商品が並べられています。
本記事ではそのなかでも消費者の主体的な選択を応援している、ホールフーズのアニマルウェルフェアに向けた取り組みを紹介します。
畜肉の飼育環境を5段階で評価
みなさんは肉を買うときに、何を基準に選びますか?
ホールフーズでは動物福祉の視点から、より自然に近い環境で育てられた畜肉を飼育環境によって6段階で評価し、その結果を売り場で開示しています。
ここで注目したいのは、例えば牛肉の場合は全てのランクにおいて抗生物質や成長ホルモンの使用は禁止され、15ヶ月ごとに第三者による監査を受けていることです。
いちばん低いランクの「1」においても、牛を囲い込まずに牧草地で雨風を凌ぎながら飼育することや、輸送にかかる時間を25時間未満にすることなど、5つの基準が定められています。
これらはホールフーズ独自の評価基準ではなく、Global Animal Partnershipという非営利団体が提供するプログラムを利用しています。
買い物は未来への投資という考えに基づき、企業と非営利団体と消費者がコミュニケーションを図ることを可能にするこの仕組みを通して、飼育環境の向上に向けた取り組みを進めています。
水産物の資源状況を認証と三段階で評価
水産物の売り場でも、同様の取り組みを進めています。
天然の水産物については、イギリスに本部を置く国際的な非営利団体 The Marine Stewardship Council(海洋管理協議会)が運営する漁業を対象にした認証制度を採用しています。持続可能な漁業で採られた天然の水産物には、海のエコラベルと呼ばれるMSC認証を表示しています。
MSC認証がない水産物については、The Monterey Bay Aquarium(モントレーベイ水族館)のシーフード・ウォッチ・プログラムと The Safina Center(サフィーナセンター、旧ブルーオーシャン・インスティテュート)とのパートナーシップにより、三段階で水産物の資源状況を評価しています。
また養殖の水産物についてはホールフーズ独自の品質基準を満たし、毎年第三者機関により認証を受けた養殖場のものを取り扱っています。
アニマルウェルフェアに向けた取り組み
そのほかにもホールフーズでは、輸送中や店内での動物の人道的な環境を維持することが難しいという理由から、生きた魚介類の販売を禁止しています。また取引先の企業や個人に対して、アザラシや鯨を捕獲しないように求めています。
これらの取り組みにより事業者には責任ある漁業や養殖を行うためのインセンティブを、消費者には主体的な選択のための情報を提供しながら、水産業界を持続可能にしていくために小売業として貢献しています。
株式会社フードピクトでは、ガストロノミーツーリズムやインバウンド対応に取り組んでいる観光・宿泊・飲食事業者に向けて、より良い食体験を届けるための事例集を毎年刊行しています。
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