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[事例11]サービスは独り言、ホスピタリティは対話 Ci Siamo の顧客体験


 世界の食トレンドと消費者が食に求める3つの役割に続いては、多様化する消費者ニーズに応えて世界に通用する食体験を提供するための3つのステップ「主体的な選択のための情報提供、コンテクストとしての食体験の提供、持続可能な食に向けた取り組みの実践」を紹介します。


 多様化する消費者ニーズに応えるステップの二つ目は、コンテクストとしての食体験の提供」です。これは第一部で紹介した消費者が食に求める役割の「コミュニティへの帰属」ニーズに応える取り組みです。


 「コンテクストとしての食体験の提供」を実施している飲食店の事例にはどのようなものがあるでしょうか? 本記事では、ニューヨークにある Ci siamo の取り組みを紹介します。



 

Ci Siamoとは

 

 Ci Siamo は、ミシュラン三つ星レストランのイレブン・マディソン・パークから、ハンバーガーチェーンのシェイク・シャックまで、幅広く飲食業を手がける Union Square Hospitality Group 創設者兼会長のダニー・マイヤーによる最新のレストランです。

 

 ニューヨークのマンハッタンのなかでも再開発が進み注目を集めるハドソンヤードの商業施設 Manhattan West 内に2019年にオープンしました。

 

 店名の Ci Siamo は「着いたぞー」という意味のイタリア語で、長かった一週間の仕事終わりに乾杯するひとときや、新たな目的地に到達したときの快感、親しみのある笑顔がもたらす安堵感などのイメージが込められています。

 

 同店のエグゼクティブシェフには、フレッシュパスタの名手として知られるヒラリー・スターリングが就任。季節の食材を使った薪火料理と自家製パスタなどのシンプルな料理と、心地のよいホスピタリティを提供し、開店以来人気を博しています。

 

 2022年9月に筆者も訪問してきましたので、本記事では体験談を交えながら同店のホスピタリティを紹介します。

 

広場に面するエントランス、ミシュラン、ガストロノミー、顧客体験、食トレンド
広場に面するエントランス|筆者撮影(2022年9月)


サービスは独り言、ホスピタリティは対話

Ci Siamo の顧客体験

 

 高層ビルに囲まれたマンハッタンウェスト。その広場に面する Ci Siamo の扉を開けると、まずは季節の植物が出迎えてくれます。

 

扉を開けた瞬間からホスピタリティは始まります、ミシュラン、ガストロノミー、顧客体験、食トレンド
扉を開けた瞬間からホスピタリティは始まります|筆者撮影(2022年9月)

 美しい曲線の階段を上がると受付があり、その先にオープンキッチンのレストランが広がります。大きく開放的な窓からは、マンハッタンの高層ビルが目に飛び込んできます。

 

 この日は参加していた国際会議「Plant Based World Expo」の昼休み、平日の14時に予約なしで訪問しました。

 

 人気店のためダメもとでの訪問でしたが、やはり店内は満席。それでも受付のお兄さんが、ひとりなら用意できるから少しだけ待ってねと言い、すぐに席を準備してくれました。

 

 そこからはテーブル担当のスタッフが席に案内してくれて「どこから来たの?仕事?」などと会話をしながら、手際よくメニューと本日のおすすめを紹介してくれます。



料理だけではなくホスピタリティもピカイチ


 注文したのは同店の人気メニュー、タリアテッレ。

もちもち食感の平打ちパスタに、さわやかなフレッシュトマトの旨味と水牛バターのコクがバランスよく絡まり、ピリッと辛めのスパイスが食欲をそそります。

 

価格はパスタ1皿とクラフトビール1本で45ドル(約6,500円 / 税・チップ込み)でした、ミシュラン、ガストロノミー、顧客体験、食トレンド
価格はパスタ1皿とクラフトビール1本で45ドル(約6,500円 / 税・チップ込み)でした|筆者撮影(2022年9月)

 また顧客満足よりも従業員満足を第一に掲げるダニー・マイヤーのお店らしく、Ci Siamo のスタッフは自分らしいスタイルでエプロンを着こなし、雑談も交えながら楽しそうに、テキパキと連携して働いています。

 

 ドリンクや料理の提供時には、よくあるレストランの定型句の会話ではなく、一人一人のお客様をよく観察しているからこそ出てくる対話が、スタッフの明るいキャラクターを活かしながら交わされます。

 

オープンキッチンでスタッフ同士のコミュニケーションにも活気があります、ミシュラン、ガストロノミー、顧客体験、食トレンド
オープンキッチンでスタッフ同士のコミュニケーションにも活気があります|筆者撮影(2022年9月)

 例えば、料理を食べはじめた時には味に問題がないかや、8割ほど食べた時にはデザートやドリンクを追加するかなどを、まるで同じテーブルで一緒に食べている友達のような心地よい距離感とタイミングで聞いてくれました。

 

 ダニー・マイヤーは「サービスは独り言、ホスピタリティは対話」と言い、スタッフが常にお客様の側にいると感じてもらえるようにそれぞれが考えて行動することを従業員に求めており、まさにその教えが体現されていました。


 同氏は従業員の採用と育成に関して、ホスピタリティの核となる5つのスキルを次のように挙げています。


1. 楽天的な温かさ

 心からの親切心、思いやり、グラスの飲み物がつねに半分以下にならないように気づくセンス。

 

2. 知性

 頭が良いだけではなく、学ぶことそれ自体を目的に、学びへの飽くことのない好奇心を抱く。

 

3. 仕事に対するモラル

 自分にでき得る最高の仕事をするという生来の傾向。

 

4. 共感

「他人がどう感じるか」と「自分の行動が他人をどういう気分にさせるか」を意識し、気づかい、結びつけて考えること。

 

5. 自覚と誠実さ

 なにが自分をその気にさせるかを理解し、正しいことを誠実に最善の判断のもとに行う責任を持つこと。


 よくトレーニングされたスタッフのホスピタリティのおかげで、ビジネスの商談や、家族やカップルでの利用も多い同店ですが、ひとりでの食事でも寂しさを感じることは一切なく、活気あふれる同店のエネルギーを他のお客様と一緒に楽しめる、すばらしい顧客体験に仕上げられていました。



 

 株式会社フードピクトでは、ガストロノミーツーリズムやインバウンド対応に取り組んでいる観光・宿泊・飲食事業者に向けて、より良い食体験を届けるための事例集を毎年刊行しています。


 最新刊の事例集「Inclusive & Regenerative Gastronomy」は、2024年9月に書籍とPDFで販売予定です。書籍は資源保護のため初版100冊のみとなりますので、お早めにご予約・ご購入ください。なお2023年度の事例集「Expolore the Future of Food」は、引き続きPDF版をご利用いただけます(書籍は完売御礼)。



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