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[事例14]自治体が土をつくり有機農業を推進するオーガニックビレッジ臼杵市


 世界の食トレンドと消費者が食に求める3つの役割に続いては、多様化する消費者ニーズに応えて世界に通用する食体験を提供するための3つのステップ「主体的な選択のための情報提供、コンテクストとしての食体験の提供、持続可能な食に向けた取り組みの実践」を紹介します。


 多様化する消費者ニーズに応えるステップの三つ目は、持続可能な食に向けた取り組みの実践」です。これは第一部で紹介した消費者が食に求める役割の「パーパスの発見」ニーズに応える取り組みです。


 持続可能な食に向けた取り組みの実践を実施している自治体の事例にはどのようなものがあるでしょうか? 本記事では、ユネスコの食文化創造都市に認定されている大分県臼杵市の取り組みを紹介します。



 

ユネスコ食文化創造都市、臼杵市とは

 

 2021年11月、大分県の南東部に位置する臼杵市は、大切に守り育ててきた多彩な食文化が評価され、ユネスコの食文化創造都市に認定されました。食分野における日本国内での認定は、山形県鶴岡市に続いて二都市目です。

 

 臼杵市は地質と地形により、きめ細やかでまろやかな水に恵まれています。恵まれた自然環境のもと、酒・醤油・味噌といった発酵文化や、質素倹約な暮らしの知恵から生まれた郷土料理など、その土地ならではの多様な食文化が発展してきました。

 

クチナシで色付けした黄飯や、豆腐や野菜とエソのそぼろのかやくなど、質素倹約の精神が受け継がれた郷土料理、サステナビリティ、地産地消、オーガニック、フードテック、Farm to Table
クチナシで色付けした黄飯や、豆腐や野菜とエソのそぼろのかやくなど、質素倹約の精神が受け継がれた郷土料理 |筆者撮影(2023年1月)

 近年では多様な食文化を大切にしつつ、地域をあげて有機農業や地産地消を推進しています。その中心的な存在が「臼杵市土づくりセンター」です。

 

 草木等を発酵させた完熟堆肥を生産し、生命力のある土づくりを実施する、日本で唯一の自治体が運営する施設です。

 

 2023年1月、臼杵市食文化創造都市の担当者にご案内をいただきながら、筆者も土づくりセンターを視察してきました。本記事ではその様子とともに同市の取り組みを紹介します。

 

臼杵市食文化創造都市の政策監(中央)と筆者(左)、サステナビリティ、地産地消、オーガニック、フードテック、Farm to Table
臼杵市食文化創造都市の政策監(中央)と筆者(左)|筆者撮影(2023年1月)


臼杵市土づくりセンター

 

 臼杵市はおいしく安全で安心な農産物を消費者に届けるため、2010年に4,590㎡の土地に「臼杵市土づくりセンター」を開設しました。約6億円の建設費用は、国や大分県と分担しました。

 

 ここでは地域内で発生する資源を活用して、完熟堆肥の「うすき夢堆肥」を製造しています。市民の健康増進と持続可能な農業を展開するために有機農業を推進し、そのための土台となる土づくりを自治体が主導して始めた珍しい取り組みです。

 

 まずは施設の紹介を兼ねて、どのように堆肥ができるのかを簡単に紹介します。

 

1)原料搬入

主に市内の事業者から有機物として買い取った草木類(刈り草、間伐材、剪定枝、農産物や農産物と一体に生育したもの、竹等)と豚糞を搬入します。

 

搬入された草木類、サステナビリティ、地産地消、オーガニック、フードテック、Farm to Table
搬入された草木類|筆者撮影(2023年1月)

2)原料調整

分解が早く進むように機械で草木類をチップ状に破砕し、水と熱を加えて膨潤させてから豚糞と混ぜ合わせ、一次発酵槽へ貯蔵します。

 

破砕され熱せられた草木類は、ハーブのようないい香りがしました、サステナビリティ、地産地消、オーガニック、フードテック、Farm to Table
破砕され熱せられた草木類は、ハーブのようないい香りがしました|筆者撮影(2023年1月)

3)一次発酵

一次発酵槽では1ヵ月かけて攪拌しながら発酵させ、その後二次発酵槽へ貯蔵します。

 

よくみると発酵中の堆肥からは蒸気が上がっており、微生物が活発であることがわかります。均等に発酵させるために空気を入れるホイールローダーが、ストックヤード内を移動しながら何度も切り返していきます。

 

一次発酵槽は手前から奥に行くほど発酵が進んでいきます、サステナビリティ、地産地消、オーガニック、フードテック、Farm to Table
一次発酵槽は手前から奥に行くほど発酵が進んでいきます|筆者撮影(2023年1月)

水分を調整しながら空気を入れて発酵を促進させます、サステナビリティ、地産地消、オーガニック、フードテック、Farm to Table
水分を調整しながら空気を入れて発酵を促進させます|筆者撮影(2023年1月)

4)二次発酵

二次発酵槽では3ヵ月かけて発酵させます。発酵を進める微生物の分解による発酵熱で、中の温度は最高で80℃になることもあるそうです。

 

5)熟成・完成

二段階の発酵を経た後は、熟成槽に移して2ヶ月ほど熟成させます。すべての工程を含めると、およそ半年間で完熟堆肥が完成します。


真冬の訪問でしたが堆肥の温度は70度近くありました、サステナビリティ、地産地消、オーガニック、フードテック、Farm to Table
真冬の訪問でしたが堆肥の温度は70度近くありました|筆者撮影(2023年1月)


うすき夢堆肥の広がりとオーガニック農業の推進


 このように製造された完熟堆肥は、臼杵の田畑をよくしようという夢に向かう堆肥、という意味を込めて「うすき夢堆肥」と名付けられました。

 

 現在うすき夢堆肥は年間1,800トン製造され、臼杵市内の農業法人や企業、一般家庭の家庭菜園などで使用されています。

 

 市民の健康と持続可能な農業を推進しようと始まった自治体による土づくりは、新規就農や企業参入につながり、今では堆肥も農地も供給が足りないほどに広まっています。

 

 また、うすき夢堆肥を使って育てられた農産物は、臼杵市独自の認証制度(審査は大分県の有機JAS認定機関に依頼)で「ほんまもん農産物」として認定し、同市の学校給食や飲食店で利用されているほか、地元のスーパーや直売所などでも販売されています

 

 臼杵市は全国に先駆けて自治体が主導して堆肥を製造し、地域循環型のオーガニック農業を推進することにより、ガストロノミーとサステナビリティーの両立を推し進めています。

 

 筆者はさまざまな生産者から「野菜づくりは土づくり」という言葉を聞きますが、土づくりを自治体が担当することで生産者は品質向上や収量拡大に集中することができ、それが新規就農や企業参入にもつながるという好循環が生まれている仕組みに、地域の未来を感じました。



 

 株式会社フードピクトでは、ガストロノミーツーリズムやインバウンド対応に取り組んでいる観光・宿泊・飲食事業者に向けて、より良い食体験を届けるための事例集を毎年刊行しています。


 最新刊の事例集「Inclusive & Regenerative Gastronomy」は、2024年9月に書籍とPDFで販売予定です。書籍は資源保護のため初版100冊のみとなりますので、お早めにご予約・ご購入ください。なお2023年度の事例集「Expolore the Future of Food」は、引き続きPDF版をご利用いただけます(書籍は完売御礼)。



 また本事例集に関する講演や寄稿のご依頼にも対応しています。講演内容の詳細やこれまでの実績は下記よりご覧いただけます。


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