世界の食トレンドと消費者が食に求める3つの役割(記事はこちら)で紹介した通り、食事が栄養補給から自己実現への手段へと変化するなか、消費者が食に求める役割は、主体的な選択、コミュニティへの帰属、パーパスの発見の3つに分けることができます。
このうち「コミュニティへの帰属」をしたい消費者のニーズを満たしてくれる食品物販の事例には、どのようなものがあるでしょうか? 本記事ではプラントベースチキンを販売したケンタッキーフライドチキンの取り組みを紹介します。
ケンタッキーとビヨンドによるテスト販売
2019年8月、米国アトランタにあるケンタッキーフライドチキン(以下「ケンタッキー」と記載)が世界の注目を集めました。
ケンタッキーと代替肉を製造販売する Beyond Meat(以下「ビヨンド」と記載)がコラボレーションして、肉を使わないプラントベース・ケンタッキー・フライドチキンのテスト販売が行われ、いち早く体験しようと多くの消費者が列をつくりました。
ニューヨークタイムズの記事によると、この日ケンタッキーは約5時間でプラントベースの手羽先とナゲットを、人気のポップコーンチキンを1週間かけて売るのと同じ数を販売しました。いったい何が消費者を惹きつけたのでしょうか?
3つのキーワードを満たす顧客体験
アメリカでは、プラントベースミートを購入する人の86%は畜肉も購入するというデータがあります。また今回取材に応じたケンタッキーの担当者も「この商品のターゲットはプラントベースを食生活に取り入れたいと考えているフレキシタリアンのお客様」と話していることから、普段から肉を食べつつプラントベースにも興味がある消費者が駆けつけたと考えられます。
そのような消費者がプラントベースに興味を持つ理由のひとつに、畜肉生産にかかる環境負荷の高さがあげられます。畜産業による二酸化炭素排出量は地球全体の排出量の14%にあたり、地球上の全ての交通手段(車、飛行機、船舶、列車など)の排出量に匹敵すると言われています。
肉は食べたいけれど、加害者にはなりたくない。そんな消費者の思いを叶えてくれる選択肢として、プラントベースの人気が高まっています。
そんな消費者を巻き込んだ今回の事例を、消費者が食に求める3つの役割のひとつ、コミュニティへの帰属に含まれる「自己認識と自己表現」「社会的承認欲求」「経験の共有」の3つのキーワードとの関連から見ていきます。
まずは環境負荷が低いプラントベース・チキンを選ぶという「自己認識」と、そんな自分をSNSなどで発信することによる「自己表現」が行われます。
それに対して友人からいいね!がつくことにより「社会的承認欲求」が満たされます。
さらに自分と同じような志向の消費者と一緒に並び、同じ商品を食べ、ハッシュタグでゆるやかにつながり、新聞記事にもなるという「経験の共有」をします。
このようにして、プラントベースチキンを並んで買って食べるという行為とSNSによる発信が組み合わさり、たった1日のテスト販売が大きなムーブメントに変わりました。
体験設計の重要性
自社の商品やサービスのターゲットが、どのような役割や期待を込めて購入してくれるのかを、購入前・購入時・購入後のフェーズごとにしっかりと設計し、消費者とつながり続けてファンになってもらう仕組みづくり(顧客体験)の重要性が高まっています。
株式会社フードピクトでは、ガストロノミーツーリズムやインバウンド対応に取り組んでいる観光・宿泊・飲食事業者に向けて、より良い食体験を届けるための事例集を毎年刊行しています。
最新刊の事例集「Inclusive & Regenerative Gastronomy」は、2024年9月に書籍とPDFで販売予定です。書籍は資源保護のため初版100冊のみとなりますので、お早めにご予約・ご購入ください。なお2023年度の事例集「Expolore the Future of Food」は、引き続きPDF版をご利用いただけます(書籍は完売御礼)。
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