世界の食トレンドと消費者が食に求める3つの役割(記事はこちら)で紹介した通り、食事が栄養補給から自己実現への手段へと変化するなか、消費者が食に求める役割は、主体的な選択、コミュニティへの帰属、パーパスの発見の3つに分けることができます。
このうち「パーパスの発見」をしたい消費者のニーズを満たしてくれる飲食店の事例には、どのようなものがあるでしょうか? 本記事ではアムステルダム郊外にあるRestaurant De Kasの取り組みを紹介します。
Restaurant De Kasとは?
Restaurant De Kas(以下「De Kas」と記載)は、オランダのアムステルダム中心部から車で15分ほどの公園内にある、野菜が主役のコース料理を提供するレストランです。
店名の De Kas はオランダ語で「温室」を意味し、その名の通りアムステルダム市が所有していた高さ8mを超える大きな温室をアップサイクルしたレストランです。
現在 De Kas はミシュランガイドで一つ星と、サステナビリティを積極的に推進しているレストランに与えられるグリーンスターを獲得しています。
世界中から訪れるグルメ好きに混じって、筆者も2022年9月に訪問してきました。本記事ではその様子も交えながら、食を通してパーパスを発見したい消費者のニーズをどのように満たしているのかを紹介します。
社会性、有形の感覚、自然への回帰
De Kas の最大の特徴は、レストランに併設されたハウスと、アムステルダム市内に所有する畑で、持続可能な方法で自分たちで野菜を育て、毎朝収穫した野菜をその日の内に料理として提供している点です。
レストランで使用する野菜の8割を自社栽培でカバーし、肉や魚もできるだけ地元の食材を使用することで、おいしさと鮮度が向上するとともに、フードマイレージ(食の輸送距離)をできるだけ短くしています。
また食事の前後には、レストランに隣接するハウスを見学することができ、料理に使用されている野菜がどのように育てられているのかについて、自分の五感を使って理解することができます。
筆者は食事の後にハウスを見学しましたが、さきほど自分が食べた料理に使われている野菜とその栽培方法を知ることができ、納得感が増しました。
料理はその日のベストな野菜から構成するため、メニューカードには料理名ではなく使用食材が記載されています。人間の都合で料理を組み立ててから食材を調達するのではなく、自然のリズムに従って食材から料理を組み立てることを大切にしています。
このようにパーパスを発見したい消費者のニーズに含まれる3つのキーワード、社会性、有形の感覚、自然への回帰がバランスよくミックスされた、心地よい食体験が提供されていました。
Farm to Table 野菜が主役のコース料理
De Kas の料理は軽くモダンで、和食の出汁のエッセンスも織り交ぜながら、甘味と酸味のコントラストをうまく効かせて野菜の持ち味をしっかりと引き出しています。
またテーブル担当のホールスタッフが全ての料理を説明するのではなく、料理ごとに入れ替わり立ち替わり個性豊かなシェフやホールスタッフのみなさんが、たのしそうに説明してくれるのも印象的でした。
訪問時のディナーコースは、オプション追加を含めて合計9品11種類。ゆっくり4時間をかけて、野菜が主役のおいしい料理と、隣接するハウスの見学を通してFarm to Table が感じられる De Kas の世界観を体験しました。
また食事の後には De Kas の料理本「PLANT TO PLATE」をオリジナルのトートバックと一緒に買って帰るお客様も多く、食事の前後を含めて顧客体験がうまくデザインされていました。
株式会社フードピクトでは、ガストロノミーツーリズムやインバウンド対応に取り組んでいる観光・宿泊・飲食事業者に向けて、より良い食体験を届けるための事例集を毎年刊行しています。
最新刊の事例集「Inclusive & Regenerative Gastronomy」は、2024年9月に書籍とPDFで販売予定です。書籍は資源保護のため初版100冊のみとなりますので、お早めにご予約・ご購入ください。なお2023年度の事例集「Expolore the Future of Food」は、引き続きPDF版をご利用いただけます(書籍は完売御礼)。
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